「特急しなの」で一時間半、石川県の小松駅に着きました。
駅周辺の雰囲気や田んぼの広がるのどかな風景が、なんとなく滋賀県と似ていて、来たばかりなのに「ただいま」と言いたくなるような場所でした。
タクシーに乗って、いくつもに重なった山並みと、虫の声が聞こえる田んぼ、ススキの穂、たわわに実った柿の木‥
しばらくすると、山のすそに白い建物。額に農口尚彦研究所さんのロゴマークが見えました。酒蔵に到着です。
今回は、農口尚彦研究所さんのテイスティングルームにあたる「杜庵」で酒事を体験させていただきました。
その日はたまたま今年始めてお酒を絞る日だったそうで、幸運にもそのお酒が生まれる瞬間を見せていただくことができました。
しぼったまんまで、まだ白く濁っていたそのお酒は、とても力強く元気いっぱいの味でした。「しぼったばかりなので、まだまだこれからです」と蔵の方はおっしゃっていましたが、私はこのむきだしのままの、原石みたいなお酒と出会えて、とても元気をもらいました。
酒事では、蔵でしか味わうことのできない純米大吟醸の生酒から、純米酒の米違い、温度違い、様々な飲み比べを体験させていただきました。
どれが一番美味しいか、自分の中で順位をつけようと思いましたが、呑むたびにそれぞれの美味しさに感動してしまい、結局最後までできませんでした。
美味しさとともに、心に残ったことは、あの空間の中にあった、とても清らかであたたかな心地よさでした。
こんこんと湧き出る水の音、大きな窓から見えた霧雨に差し込む光のやさしさや、田んぼのおだやかさ。
そこで感じたものが、自然とお酒の味わいと重なって、心を満たしていくような、なんとも言えない心地よさがそこにはありました。
途中、農口杜氏が来てくださいました。
「田舎ですし、人た出ていくばかりやけど、ここは本当にきれいなところです。水がいいんです。そのへんシカも出てくるし、サルやらイノシシやらいっぱいおりますわ。トンボもぎょうさんおりますよ。」と、窓の方を指さしながら、いろいろ話してくださいました。
こんこんと湧き出ているこの水が、どんなにありがたく、豊かであることか。どうかいつまでも清らかでありますようにと、心の中で静かにお祈りしました。
心地よいという感覚を全身で味あわせてもらったような、とても幸せな時間でした。美味しかったです!
農口尚彦研究所のみなさん、本当にありがとうございました。
「おいしい!!」
一口飲んだ瞬間からそう思いました。
果実のような爽やかな香り、透明感のあるきれいな味わいの中に、すっと背筋を伸ばしたような、まっすぐなお米の旨みを感じました。
「酒造りの神様」と呼ばれる日本で最も有名な杜氏の一人、農口尚彦さんが、若手蔵人といっしょになって醸す魂のお酒です。
農口さんは、一度酒造りを引退されましたが、「農口さんのお酒が呑みたい」というたくさんの声に応え、2年のブランクを経て復帰されました。2017年、「農口尚彦研究所」という新しい酒蔵が石川県に誕生。約70年間におよぶ酒造り人生の集大成として、全国から集まった若手蔵人さんたちといっしょに、魂の酒造りに挑まれています。
滋賀県出身の蔵人さんも、農口杜氏の元で酒造りに励んでおられます。
この場所からどんなお酒と物語が生まれてくるのか、とても楽しみです。
・農口尚彦研究所 本醸造酒
720ml ¥1,500(税別) 1,8L ¥3,000(税別)